日記の3歩手前。

日々の書き散らし、誰かの隙間の思考です。

無敵の靴底

 

欲しかったものの記憶を書くと言いましたが、あれは嘘です。

今日はシンプルに昔のお話。

 

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小学校の頃、とある瞬間まで、靴は無敵だと思っていた。

あれは小学校の低学年、もしかしたら4年生くらいだったかもしれない。
どちらにせよ、あの頃の休み時間は校舎の中や外を縦横無尽に駆け回っていた。
10分休み時間に、誰か一人が上履きを靴に履き替えて走り出せば意味もなく追いかけ回したし、先頭を切って校庭へ駆け出したこともある。
もう随分と昔の事なので大部分が朧気だが、みんなが駆け回るスポットには流行があった。
校庭のフチをなぞるように広がる、やたらと傾斜のある森モドキが私のお気に入りで、5・6年生の休み時間はほとんどそこで木登りをして過ごした。

そんないくつかあったスポットの一つ、学校で一番大きい外の大階段でのことだった。

外の大階段にはバリアフリーのスロープが設置されていて、それは大きいカーブが一回と、小さいカーブが何回か組み合わされてできていた。
そしてそのカーブの内側は様々な植物、特に樹木が植えられていた。
植えられていた樹木のメインはゴールデンシャワーという木で、それは見事な花を咲かせるので毎年の楽しみだった。
そんな立派な樹が植えられている場所だけども、悪ガキどもにはちょうどよく複雑なアスレチックでしかなかった。スロープも花壇も関係なく眼の前の友人を追いかけるために飛び回り、転び、起きてまた力強く踏み込んだ、その時だった。

ブチッと音を立てて、鋭い何かが足の裏に刺さった。
一気に血の気が引いて、その場から一歩も動けなくなった。

今でもこの瞬間のことは鮮明に思い出せる。
「終わった」と、ただ思った。

走り回っていた友人達はもちろんそのまま走っていったので、取り残された私は恐る恐るひとりで自分の足裏を確認する羽目になった。

結論から言うと、怪我はなかった。

立派な棘が、そこそこ厚みのあるスニーカーの底を容易く貫いて、ちょうど顔を見せた所で止まっていた。
脱いだ靴を慎重に引き抜いて、底を覗いてみればちゃんと穴が空いていて、踏み固められた土が見えたのを覚えている。

棘の正体はブーゲンビリアという植物の棘だった。
皆様にはぜひ一度「ブーゲンビリア 棘」で検索していただきたい。そしてそれが靴底を貫通する恐怖を想像してほしい。
子供ながらに大怪我にならなかったのは偶然だと悟ったし、自分の靴底への信仰がいかに盲目的であったかを思い知らされた。靴底は、万能の盾ではないのだとひとつ夢が散り、それまでのように無防備に駆け出すことができなくなった瞬間だった。

書いていて思ったが、この体験の恐怖から私は遊ぶフィールドを木の上に変えたのかもしれない。これ以降の休み時間の記憶は木の上と校庭と図書館だけだ。
あのスロープの花壇で駆け回ることは二度となかったし、今でもブーゲンビリアの華やかな紫を見るたび、あの獰猛な棘の存在を思い出し、足が少し竦む。

みなさまの、鉄壁の靴底が破られたのはいつの頃でしたでしょうか。
機会があればエピソードを集めてみたい。

 

華華華